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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)144号 判決 1982年2月08日

控訴人・附帯被控訴人(原告)

草野イセ

被控訴人(被告)

越後交通株式会社

被控訴人・附帯控訴人(被告)

酒井忠男

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人(附帯被控訴人)に対し、被控訴人越後交通株式会社は、金九八万三九三四円及び内金八八万三九三四円に対し昭和四四年一一月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、被控訴人(附帯控訴人)酒井忠男は、金一三六万二九二一円及び内金一二六万二九二一円に対し昭和四六年二月一八日から、内金一〇万円に対し昭和四九年六月三〇日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人(附帯被控訴人)のその余の請求をいずれも棄却する。

二  被控訴人(附帯控訴人)酒井忠男の附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)と被控訴人越後交通株式会社とに生じた費用の各四分の一を被控訴人越後交通株式会社の負担とし、控訴人(附帯被控訴人)に生じた費用の四分の一と被控訴人(附帯控訴人)酒井忠男に生じた費用の二分の一を被控訴人(附帯控訴人)酒井忠男の負担とし、控訴人と被控訴人両名とに生じたその余の費用はすべて控訴人の負担とする。

四  この判決の主文一1は、仮に執行することができる。

事実

控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)は、「原判決を左のとおり変更する。被控訴人越後交通株式会社(以下「被控訴人会社」という。)は控訴人に対し、金四六一万二五〇〇円及び内金四三一万二五〇〇円に対する昭和四四年一一月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)酒井忠男は控訴人に対し、金五二七万〇四三六円及び内金四九七万〇四七六円に対する昭和四六年二月一八日から、内金三〇万円に対する昭和四九年六月三〇日から完済までそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの各負担とする。被控訴人酒井忠男の附帯控訴を棄却する。」旨の判決を求め、被控訴人会社代理人は、控訴棄却の判決を求め、被控訴人酒井忠男代理人は、控訴棄却の判決並びに附帯控訴として「原判決中被控訴人酒井忠男関係敗訴部分を取消す。右取消部分につき、控訴人の右被控訴人に対する請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、以下のとおり加えるほか原判決事実摘示(原判決二枚目―記録三一丁―裏一二行目から原判決二七枚目―記録五六丁―裏三行目までと原判決添付(一)、(二)と題する書面を含む。)と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決五枚目―記録三四丁―裏一〇行目に「昭和昭和四五年」とあるのを「昭和四五年」と改め、原判決六枚目―記録三五丁―表一行目、原判決一〇枚目―記録三九丁―裏三行目、原判決一二枚目―記録四一丁―表一二行目、原判決二〇枚目―記録四九丁―表一〇行目、原判決二二枚目―記録五一丁―表三行目に「頂部」とあるのをいずれも「項部」と改め、原判決九枚目―記録三八丁―表一二行目「昭和四四・」から同一三行目「・三一迄」を「昭和四四年一一月六日より同年一二月三一日まで」と改め、原判決二一枚目―記録五〇丁―裏一一行目に「ならびに(三)・1」とあるのを削り、原判決二三枚目―記録五二丁―裏一行目に「脊椎」とあるのを「脊柱」と改め、原判決二七枚目―記録五六丁―表三行目に「第二八号証、」とあるのを「第二七号証ないし」と改め、同表四、五行目「第三二号証」から「第三五号証の一・二」までを「第三二、三三号証、第三四号証の一・二」と改め、同表七行目に「(第一・二回)」とあるのを削る。)。〔証拠関係略〕

理由

一  当裁判所は、控訴人の本訴請求につき、後に述べる限度においてこれを正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきであるとするものであつて、その事実認定及びこれに伴う判断は、次のとおり加え、改めるほか、原判決の理由説示(原判決二七枚目―記録五六丁―裏五行目から原判決三六枚目―記録六五丁―裏四行目まで。)と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決二七枚目―記録五六丁―裏七行目に「第八号証」とあるのを「第八ないし第一〇号証」と改め、同八、九行目に「原告本人尋問の結果(第一・二回)」とあるのを「原審における控訴人本人の供述」と改める。

2  原判決二八枚目―記録五七丁―表七行目「右訴外唐沢は、」より九行目までを次のとおり改める。

「本件バスの車掌小林のり子は、控訴人が着席するか吊革、手すりなどにつかまつたことを確認せず、漫然運転手唐沢に対して発車の合図をし、同運転手は右合図に応じて漫然本件バスを発車させた。その直後、控訴人は、前記のとおり転倒したものである。」

3  原判決二八枚目―記録五七丁―表一一行目を次のとおり改める。

「被控訴人会社が本件バスの運行供用者である事実は、当事者間に争いがない。」

4  原判決二九枚目―記録五八丁―表末行に「七対原告三」とあるのを「八対控訴人二」と改め、同裏二行目に「〇円」とあるのを削る。

5  原判決二九枚目―記録五八丁―裏三ないし五行目に「第四号証の一・二、」とあるのを「第四号証の一ないし三」と改め、「原告本人尋問の結果(第一・二回)」とあるのを「原審証人山田道雄、原審及び当審における控訴人本人の各供述」と改め、同七行目に「頂部症候群」とあるのを「項部症候群」と改め、同一〇、一一行目に「原告本人尋問の結果(第一・二回)」とあるのを「原審における控訴人本人の供述」と改める。

6  原判決三〇枚目―記録五九丁―表二行目から原判決三一枚目―記録六〇丁―裏四行目までを次のとおり改める。

「しかし、第一事故当時においては、前記第一四(一)2認定事実に弁論の全趣旨を総合すれば、株式会社ホテル三越は度重なる従業員のストライキなどのため経営も苦境に立たされていたと推認され、右事実に原審における控訴人本人の供述を総合すれば、控訴人が第一事故当時においても前同様に定期に定額の役員報酬の支給を受けていたものと認めることはできない。その他、当時控訴人が得ていた収入について明確にその額を認めるに足りる証拠はなく、控訴人が第一事故により休業することによつて、右報酬も含め自らの収入を全く得られなくなつたと認めるに足りる証拠はない。しかし、後記認定のとおり、控訴人は第一事故により五パーセントの労働能力を喪失したものと認められる。そして、控訴人が求める休業損害も後遺症による逸失利益も、要するに事故による労働能力喪失により被つた損害を主張するものと解して、両者を合して後に述べるとおりこれを算定する。

(二) 後遺症による逸失利益

控訴人は、第一事故による受傷の結果頭痛、耳なりなどで苦しんだが、第二事故が発生した昭和四六年二月一七日当時並びに現在も右症状にあることが認められ、右認定に反する証拠はない。しかし、原審における証人玉木隆二郎、同山田道雄、同控訴人本人の各供述によれば、控訴人は、昭和四四年一二月一五日には新潟市へ出かけ、退院後は営業のため出歩くなど活動していることが認められ、控訴人の前記症状は、同人の心因的要素も多分に含まれていると認められる。したがつて、控訴人が第一事故によつて負つた障害は、その症状からみて労災補償保険法に基づく身体障害等級表のうち一四級九号に該当し、労働能力喪失の割合は右障害の程度から勘案して年五パーセントと認めるのが相当である。

そこで、(一)の休業損害と(二)の後遺症による逸失利益とを合し、以下のとおりこれを算定する。

控訴人は、第一事故当時六二歳であつたから、その就労可能年数を六七歳までの四年間とし、昭和四五年度賃金構造基本統計調査報告第一巻第一表女子労働者産業計・企業規模計・学歴計・年齢計によれば、毎月きまつて支給する現金給与額は三万四七〇〇円であり、年間賞与その他の特別給与額は八万七三〇〇円であるから、年間収入は五〇万三七〇〇円となる。

34,700×12+87,300=503,700

これをホフマン係数により中間利息を控除して逸失利益を計算すれば、次のとおり一〇万九九一四円となる。

503,700×4,3643×0.05=109,914」

7  原判決三一枚目―記録六〇丁―裏六、七行目に「原告本人尋問の結果(第一回)」とあるのを「原審における控訴人本人の供述」と改める。

8  原判決三二枚目―記録六一丁―表六行目から原判決三三枚目―記録六二丁―表四行目までを次のとおり改める。

「(六)慰謝料

控訴人の前記入通院期間、受傷、後遺症の程度等諸般の事情を考慮すれば、控訴人の本件受傷、後遺症に対する精神的苦痛を慰謝するには少くとも一二〇万円を要するものと認めるべきである。

(七) 以上、(一)ないし(四)、(六)を合計すれば、一三五万四九一四円となる。ところで、前叙のとおり第一事故の発生については控訴人にも過失があるといわざるをえないから、これを斟酌するときは、控訴人が被控訴人会社に対して損害賠償を求めうる額は一〇八万三九三四円と定めるのが相当である。そして、被控訴人会社が損害金としてすでに二〇万円を控訴人に支払つたことは当事者間に争いがないから、これを右金員から差引くと八八万三九三四円となる。なお、被控訴人会社が控訴人に対して入院治療費を支出したことは、原審証人相田光男の供述によりこれを認めることができる。しかし、右供述によれば、被控訴人会社は右入院治療費は全額同会社において負担することとして支払つた事実が認められるから、右入院治療費については過失相殺をすべきではないと考える。したがつて、被控訴人会社が支出した右入院治療費中の一部が過払となるということはない。

(八) 弁護士費用

控訴人が本件訴訟追行を弁護士に委任したことは記録上明らかであり、本件事案の内容等を考慮すると、控訴人が被控訴人会社に対し請求しうる弁護士費用額は、一〇万円をもつて相当と認める。

五 以上の次第であるから、控訴人の被控訴人会社に対する本訴請求は、九八万三九三四円及び内金八八万三九三四円に対し不法行為の日の後である昭和四四年一一月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容すべきであるがその余は失当として棄却すべきである。」

9  原判決三三枚目―記録六二丁―表九行目に「請求原因二・(三)・1の事実」とあるのを「請求原因二の事実」と改め、同一〇行目から原判決三四枚目―記録六三丁―表三行目までを次のように改める。

「(二) 成立に争いのない甲第二五号証、第二六号証の一ないし八、第二七、第二八号証、丙第一号証、原審における控訴人本人の供述により真正に成立したものと認められる甲第一八号証、原審証人山田道雄、原審及び当審における控訴人本人の各供述を総合すれば、以下の事実が認められる。すなわち、控訴人は、第二事故により頭部腹部打僕傷のほか第三ないし第五腰椎圧迫骨折、頸筋緊張性後頭部項部症候群等の傷害を負い、このため前叙のとおり昭和四六年三月一一日済生会三条病院に入院した当時の症状は、頭部痛、腰痛、耳鳴りなどの状態にあり、その後病状固定後も頸部、後頭部、項部、腰部痛、耳鳴りなどで苦しみ、歩行のため松葉杖を使用し、現在に至つている。

そして、前叙のとおり、控訴人は第二事故当時、第一事故による傷害が完治せず、その後遺症状が存していたのであるから、その事故の態様、症状、控訴人の年齢、平素の健康状態等諸般の事情を考慮し、前記認定の傷害及びその後遺症状に対する第二事故の寄与率は七〇パーセントと認めるのが相当である。」

10  原判決三四枚目―記録六三丁―裏一〇行目に「丙第二号証」とある前に「成立に争いのない」を加える。

11  原判決三五枚目―記録六四丁―表二行目から原判決三六枚目―記録六五丁―裏四行目までを次のとおり改める。

「(二) 休業損害及び後遺症による逸失利益

本件全証拠を検討しても、控訴人が第二事故当時において株式会社ホテル三越より役員報酬の支給を現に受けていたものと認めることはできず、その他当時控訴人が得ていた収入について明確にその額を認めるに足りる証拠はなく、控訴人が第二事故により休業することによつて、右報酬も含め自らの収入を全く得られなくなつたと認めるに足りる証拠はない。しかし、前記二認定の事実によれば、控訴人が第二事故によつて負つた障害は、その症状からみて労災補償保険法に基づく身体障害等級表のうち六級四号に該当し、労働能力喪失の割合は右障害の程度から勘案して六〇パーセントと認めるのが相当である。そして、控訴人が求める休業損害も後遺症による逸失利益も、要するに事故による労働能力喪失により被つた損害を主張するものと解して、以下のとおりこれを算定する。

控訴人は、第二事故当時六三歳であつたから、その就労可能年数を六七歳までの四年間とし、昭和四六年度賃金構造基本統計調査報告第一巻第一表女子労働者産業計・企業規模計・学歴計・年齢計によれば、毎月きまつて支給する現金給与額は四万〇一〇〇円であり、年間賞与その他の特別給与額は一〇万七五〇〇円であるから、年間収入は、五八万八七〇〇円となる。

40,100×12+107,500=588,700

これをホフマン係数により中間利息を控除して逸失利益を計算すれば、次のとおり一二五万八九八二円となる。

588,700×3,5643×0.6=1258,982

これに、前記寄与の割合七〇パーセントを乗ずれば、八八万一二八七円となる。

(三) 慰謝料

控訴人の前記入通院期間、受傷、後遺症の程度、第二事故が控訴人の負つた傷害に寄与した割合等諸般の事情を考慮すれば、控訴人の本件受傷、後遺症に対する精神的苦痛を慰謝するには少くとも三〇〇万円を要するものと認めるべきである。

(四) 以上、(一)ないし(三)を合計すれば、四〇八万〇四四八円となるが、控訴人が自賠責保険より二八一万七五二七円を受領していることは当事者間に争いがないから、これを右金額から差引くと一二六万二九二一円となる。

(五) 弁護士費用

控訴人が本件訴訟追行を弁護士に委任したことは記録上明らかであり、本件事案の内容等を考慮すると、控訴人が被控訴人酒井に対し請求しうる弁護士費用額は、一〇万円をもつて相当と認める。

四 以上の次第であるから、控訴人の被控訴人酒井に対する本訴請求は、一三六万二九二一円及び内金一二六万二九二一円に対し不法行為の後である昭和四六年二月一八日から、内金一〇万円に対し訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四九年六月三〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。」

二  よつて、右と一部結論を異にする原判決は、右結論を異にする限度において不当であり、その余は相当であり、控訴人の本件控訴は一部理由があるが、その余は理由がないので民訴法三八四条、三八六条に従い原判決を主文一項のとおり変更し、被控訴人酒井の附帯控訴は理由がないので同法三八四条に従いこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法八九条、九二条、九五条、九六条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 園部秀信 宇野榮一郎 川上正俊)

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